コール・デビット・スプレッドとプット・クレジット・スプレッドの満期時損益が一致する理由

仮に、ある株式の価格が$101だとします。権利行使価格$100と$105を使ったコール・スプレッドを組む場合は$200を支払い、代わりに同じ権利行使価格のプット・スプレッドを組む場合は$300を受け取るとします。新規建て時の資金の出入りは逆でも、満期時の損益はまったく同じになることがあります。

4つのオプションはすべて同じ将来の満期日を持ち、受渡し対象も一致しているものとします。各レッグは、米国の標準的な株式オプション1契約です。1契約は100株に相当するため、1株あたり$1のプレミアムは1契約あたり$100になります。以下のプレミアムは説明用に設定した仮の金額であり、リアルタイムの気配値、市場価格の推定値、計算ツールの出力ではありません。満期時のペイオフを計算するだけなので、具体的な残存期間を定める必要はありません。 1

コール・デビット・スプレッドでは、$100コールを1株あたり$6で買い、$105コールを$4で売ります。$600を支払い、$400を受け取るため、正味支払額は$200です。このように権利行使価格の低いコールを買い、高いコールを売る組み合わせは、ブル・コール・スプレッドとも呼ばれます。 2

プット・クレジット・スプレッドでは、$105プットを1株あたり$8で売り、$100プットを$5で買います。$800を受け取り、$500を支払うため、正味受取額は$300です。このように権利行使価格の高いプットを売り、低いプットを買う組み合わせは、ブル・プット・スプレッドとも呼ばれます。 3

「デビット」と「クレジット」は、スプレッドの新規建て時に口座からお金が出ていくか、入ってくるかを表す言葉です。それだけで最終的な利益や損失の額がわかるわけではありません。$300のクレジットを受け取ったことは、$300の利益を得たことを意味しません。プット・スプレッドには、その後も義務が残っています。

新規建てから満期までの資金の流れ

まず、満期時の株価が$102の場合を考えます。

買った$100コールの本源的価値は1株あたり$2、売った$105コールはゼロです。そのため、コール・スプレッドの満期時の価値は$200になります。これは新規建て時に支払った$200とちょうど相殺され、利益はゼロです。

プット側では、売った$105プットに1株あたり$3の本源的価値が生じ、その分は売り手の負債になります。買った$100プットには本源的価値がありません。プットのポジションには、本源的価値ベースで正味$300の負債が残ります。これが新規建て時に受け取った$300とちょうど相殺されるため、こちらも利益はゼロです。

満期時の株価がどの水準でも、同じように計算できます。

満期時の株価コール・スプレッド:ポジションの価値(符号付き)プット・スプレッド:ポジションの価値(符号付き)コール・スプレッドの損益プット・スプレッドの損益
$90$0−$500−$200−$200
$100$0−$500−$200−$200
$102+$200−$300$0$0
$105+$500$0+$300+$300
$110+$500$0+$300+$300

表の金額はすべて、スプレッド1組あたりのドル建て合計額です。符号付きのポジション価値は、買いオプションの本源的価値から売りオプションの本源的価値を差し引いたもので、新規建て時の金額はまだ反映していません。損益には、新規建て時のプレミアムも含めます。計算には、売買手数料やその他の手数料、資金の調達・運用の影響、税金、満期前の権利行使やその割当て(アサインメント)による資金の出入り、その後の株式ポジションの損益は含めていません。

$100以下では両コールの本源的価値がゼロになるため、コール・スプレッドは正味支払額の$200を失います。一方、プット・スプレッドには正味$500の負債があり、その一部を新規建て時の受取額$300が相殺します。たとえば$90では、売りの$105プットが−$1,500、買いの$100プットが+$1,000となります。その差の−$500に当初の受取額$300を加えると、コールと同じ$200の損失になります。

$105以上では、コール・スプレッドの本源的価値は$500に達し、それ以上は増えません。株価が$105を超えた後は、買いコールの価値が$1増えるたびに、売りコールによる負債も$1増えて相殺されるためです。正味支払額$200を差し引くと、利益は$300です。プット・スプレッドも利益は同じですが、その成り立ちは異なります。両プットの本源的価値がゼロになり、当初受け取った$300が残ります。

両権利行使価格の間では、満期時の株価が$1上がるごとに、どちらのスプレッドも損益が$100改善します。コール・スプレッドの資産価値が増える一方、プット・スプレッドの負債は同じ額だけ減ります。

ポジションの価値は違っても、損益は一致する

表の2つのポジション価値の列は、同じ数字にはなっていません。コール・スプレッドの符号付きの満期時価値は、常にプット・スプレッドより$500高くなっています。

ただし、新規建て時も両ポジションの符号付き価値は異なっていました。例のプレミアムでは、コール・スプレッドの価値は+$200で、その対価として口座から$200を支払います。プット・スプレッドの価値は−$300で、それに伴って口座に$300が入ります。オプションのポジション価値と新規建て時のキャッシュフローは、符号が逆です。

資金の調達・運用とコストの影響を除くと、損益は次のように計算できます。

損益=満期時の符号付きポジション価値−新規建て時の符号付き価値\text{損益}=\text{満期時の符号付きポジション価値}-\text{新規建て時の符号付き価値}

満期時の株価が$102なら、次のようになります。

コールの損益=$200−$200=0\text{コールの損益}=\$200-\$200=0 プットの損益=−$300−(−$300)=0\text{プットの損益}=-\$300-(-\$300)=0

コール・スプレッドは満期時のポジション価値が$500高いものの、新規建て時の符号付き価値にも$500の差があるため、差し引きで相殺されます。損益が一致するために、新規建て時の金額を差し引く前のオプション価値まで一致する必要はありません。

この関係から、損益が完全に一致する一般条件がわかります。権利行使価格の差をW=KH−KLW=K_H-K_L、コール・スプレッドの1株あたりの正味支払額をdd、プット・スプレッドの1株あたりの正味受取額をccとします。買いと売りが1対1で、対応する条件が揃ったスプレッドをそれぞれqq組、契約乗数をMMとすると、満期時の損益の差は次のとおりです。

コールの損益−プットの損益=qM(W−d−c)\text{コールの損益}-\text{プットの損益}=qM(W-d-c)

この式には満期時の株価が含まれていません。つまり、損益の差は曲線のどの位置でも一定です。したがって、資金の調達・運用とコストの影響を除くと、次の条件で2つの曲線が重なります。

d+c=Wd+c=W

この例では、2+3=52+3=5、q=1q=1、M=100M=100です。どちらも満期時の最大利益は$300、満期時の最大損失は$200、満期時の損益分岐価格は$102です。コール側の損益分岐価格は、低いほうの権利行使価格に正味支払額を足した100+2=102100+2=102です。プット側は、高いほうの権利行使価格から正味受取額を引いた105−3=102105-3=102です。このように損益分岐価格を両権利行使価格の間に求める式は、この例のように正味支払額または正味受取額が正で、かつ権利行使価格の差より小さいことを前提としています。 2 3

正味支払額と正味受取額の合計が権利行使価格の差と一致しなければ、対応するスプレッドの満期時の損益曲線は同じ形を保ちますが、一方がもう一方より上または下にずれます。この比較には、原資産、権利行使価格、満期、数量、受渡し対象が一致している必要があります。単に幅がどちらも$5というだけでは不十分です。対応するスプレッドを1組単位で増減すると、ドル建ての金額は組数に比例して変わりますが、損益分岐価格は変わりません。個別の計算についてはペイオフと損益分岐点で詳しく解説しています。

金利を考慮すると価格の比較が変わる理由

前の節の等式は、ペイオフを計算した結果です。実際の市場プレミアムが常にd+c=Wd+c=Wを満たさなければならない、という価格の法則ではありません。

満期にしか権利行使できないヨーロピアン型オプションでは、プット・コール・パリティが、原資産・権利行使価格・満期の等しいコールとプットの価格を結び付けます。理想的な資金調達・運用条件と連続配当利回りを仮定した、1株あたりの関係は次のとおりです。

C(K)−P(K)=S0e−aT−Ke−rTC(K)-P(K)=S_0e^{-aT}-Ke^{-rT}

ここで、C(K)C(K)とP(K)P(K)はそれぞれ権利行使価格KKのコール価格とプット価格、S0S_0は新規建て時の株価、aaは連続配当利回り、rrは連続複利の年利、TTは年単位の残存期間です。 4 5

低い権利行使価格での式から、高い権利行使価格での式を引くと、次のようになります。

d+c=We−rTd+c=We^{-rT}

共通する株価と配当の項が相殺されます。正味支払額と正味受取額の合計は、必ずしも権利行使価格の差そのものではなく、権利行使価格の差の現在価値になります。直感的には、コール側は満期時に$500多い価値を持つので、その分だけ現時点で余分に負担する経済的なコストも、将来の$500の現在価値になるということです。

これとは別のヨーロピアン型の仮定例として、権利行使価格の差を$5、連続複利の年利を4%、残存期間を45日とし、T=45/365.25T=45/365.25を使います。

5e−0.04(45/365.25)≈$4.975425e^{-0.04(45/365.25)}\approx\$4.97542

プレミアムがこの関係を満たす場合、金利を考慮せずに新規建て時のプレミアムを差し引くと、100株単位のスプレッド1組あたり、コール側の名目上の満期時損益が約$2.46高くなります。この差は資金の調達・運用に伴うもので、コール側のペイオフが理由もなく有利になったわけではありません。

同じ金利で理想的に資金を調達・運用できるものとして、新規建て時の支払額を満期時のderTde^{rT}に、受取額をcerTce^{rT}に換算します。すると、満期時の損益の差は次のようになります。

コールの損益資金調達・運用考慮後−プットの損益資金調達・運用考慮後=qM[W−(d+c)erT]=0\text{コールの損益}_{\text{資金調達・運用考慮後}}-\text{プットの損益}_{\text{資金調達・運用考慮後}} =qM\bigl[W-(d+c)e^{rT}\bigr]=0

最後の等号は、ヨーロピアン型オプションの価格の恒等式から導かれます。実際の借入金利、現金に付く利息、担保の制約、売買執行コストは別途考慮する必要があります。Options Industry Councilも、保有コスト(キャリーコスト)を調整した比較として、両者の損益構造の一致を説明しています。 3 4

金利がゼロなら、ヨーロピアン型の恒等式はd+c=Wd+c=Wになります。冒頭の例は、この割引を行わない計算関係が成り立つように設定したものです。現在の市場金利がゼロだと主張しているわけではありません。

両スプレッドで異なる点

アメリカン型の権利行使とアサインメント

冒頭の例で使った米国の標準的な株式オプションは、満期前にも権利行使できるアメリカン型です。期限前行使の権利があるため、ヨーロピアン型の厳密なパリティをそのままプレミアムに当てはめることはできません。理想的なヨーロピアン型のバーティカル・スプレッドの恒等式では配当の項が相殺されても、実際の権利行使判断や価値には、配当と権利行使価格の受払いの時期が影響することがあります。 1 4

アサインメントが発生したときの義務も異なります。権利行使価格$105の売りコールにアサインメントが発生すると、1株$105で100株を引き渡す必要があります。権利行使価格$105の売りプットの場合は、1株$105で100株を買う必要があり、購入額は$10,500です。どちらのスプレッドでも、買っている$100のオプションは独立した契約のままです。売りレッグにアサインメントが発生しても、買いレッグが自動的に権利行使されたり、ポジション全体が解消されたりするわけではありません。 6

これらのオプションは株式の受渡しで決済されます。表の差引金額がそのまま自動的に現金でやり取りされるわけではありません。どの契約が権利行使され、その後どのような株式ポジションが残るかは、この表だけでは決まりません。そのため、満期時の最大損失が$200でも、口座にはそれを上回る資金や株式の引渡しが必要になる可能性があります。保有し続けた株式に後から生じる損益は、ここで示したオプションのペイオフ上の限度には含まれません。 1 6

手仕舞い価格、必要資金、利益が出る確率

満期前に手仕舞いするには、どちらのスプレッドでも買いオプションを売却し、売りオプションを買い戻します。実際に取引できる両方の価格が重要です。満期時の損益曲線が一致していても、途中時点の評価額や、実際に約定可能な価格で手仕舞いした結果まで同じになる保証はありません。ビッド・アスク・スプレッド、コスト、資金の調達・運用、アメリカン型の権利行使の影響があるためです。 2 3 原資産価格が両権利行使価格を上回っているだけでは、満期前の手仕舞い価値が権利行使価格の差と等しいとはいえない理由を、満期前のデビット・スプレッドの価値の計算例で解説しています。

満期時の最大損失がどちらも$200であることから、証券会社の証拠金要件や必要な買付余力まで同じだとはいえません。新規建て時に受け取るクレジットだけでは、ポジションの維持や管理に必要な資金はわかりません。リスク・証拠金・アサインメントでは、ペイオフ上の限度と、担保や株式の受渡しに必要な資金を分けて説明しています。

この例では、どちらのスプレッドも満期時の株価が$102を上回った場合に限り、満期時に利益が出ます。満期時の株価について同じ確率分布を仮定すれば、利益が生じる条件は同じです。ただし、この表はその確率を示しているわけでも、期待リターンを推定しているわけでもありません。「クレジット」という言葉そのものに、利益の出やすさという優位性はありません。

Options Calculatorで両スプレッドを比較する

オプション計算ツールで、同じ1つの原資産を対象に、それぞれのスプレッドを別々に入力します。エントリー価格は$101、各レッグの数量は1とし、標準の100株の契約乗数を使います。2つの組み方を比較するときは、同じ将来の満期日、インプライド・ボラティリティ、金利、配当利回りを使ってください。計算ツールはアメリカン型の契約をモデル化しており、これらの入力値は各オプション・レッグで共有されます。

満期時を比較するには、「株価」ビューで「損益」を選び、分析日を満期日に設定します。エントリー価格は$101のまま、さまざまな株価に対応する曲線の値を読み取ってください。「損益」はモデルで求めた新規建て時の符号付き価値を差し引きますが、「ポジション」は差し引く前の符号付きオプション価値を表示します。表で見たとおり、この2つの縦軸の値は同じものとして扱えません。

計算ツールは、エントリー価格、今日の日付、インプライド・ボラティリティ、金利、配当利回りから、新規建て時のプレミアムを再計算します。新規建て時の前提を編集するとその基準が変わりますが、曲線上の別の株価の値を読むだけでは変わりません。実際の約定価格を入力し、例で設定したコールの$6/$4、プットの$8/$5というプレミアムを固定する機能はありません。そのため、同じレッグを入力しても、この表の金額がそのまま再現される保証はありません。

モデルの残存期間は暦日の整数単位で計算し、満期当日はゼロとして扱います。資金の調達・運用に伴う現金口座の出入りや残高を記録する機能はなく、手数料、税金、証券会社の証拠金、アサインメントで生じた株式、個別の配当スケジュールも含めていません。リアルタイムの気配値も、独立した確率や期待リターンの推定値も提供しません。操作方法は計算ツールの使い方、価格計算・日付・対象範囲の詳細は計算方法をご覧ください。

参考文献

  1. OCC:株式オプションの契約仕様
  2. Options Industry Council:ブル・コール・スプレッド(コール・デビット・スプレッド)
  3. Options Industry Council:ブル・プット・スプレッド(プット・クレジット・スプレッド)
  4. Options Industry Council:プット・コール・パリティ
  5. コロンビア大学:ブラック–ショールズ・モデル、第1–1.2節
  6. Options Industry Council:オプションのアサインメント